羊水過少症とは、名前の通り羊水が少ない状態のことをいいます。
羊水過少症は妊娠初期から後期までいつでなり得る状態であり、原因も多様です。
赤ちゃん側、お母さん側のどちらとも原因になることがあります。中には原因不明のケースも…。
今回は羊水過少症が起こる原因、どのような影響があるのか、実際病院で実施されている対処法など幅広くご説明していきます。
羊水って何でできている?
妊娠初期は羊膜(胎児を包む薄い膜)などからにじみ出たもの、妊娠中期以降は赤ちゃんの腎臓で生成された尿によって羊水が作られます。つまりほぼ赤ちゃんの尿になります。
個人差はありますが、羊水は30週頃をピークに大体800mlほどになると言われています。それ以降は徐々に減っていき、出産時には大体500mlぐらいと言われています。羊水過少症とは、100ml未満の状態をいいます。
なぜ羊水が少なくなってしまうのか、原因を具体的に見ていきましょう。
羊水過少症の原因は?原因不明もあり!?
前期破水
妊娠後期(28週~39週)の羊水過少症の原因は、「前期破水」と言われています。
前期破水とは陣痛が来る前に羊膜が破れることであり、よく起こることです。時折、妊娠中期でも起こることはあります。羊水が漏れ出してしまうので、量が少なくなってしまいます。
前期破水の原因は不明ですが、感染や切迫早産などが関連しています。
赤ちゃんの尿が少ない、排出されない
赤ちゃんの尿が少なくなる原因として
1.胎児機能不全、胎児発育不全
2.泌尿器系の異常などがあげられます。
妊娠高血圧症候群などの母体の疾患
過期妊娠
薬剤
原因不明
原因を把握するためにさまざまな検査をしてもわからない場合もあります。
羊水過少症の自覚症状ってあるの?気にしてほしいサイン3つ!
体内で起きていることなので、自覚症状はほとんどありません。
どの妊婦さんにも共通して言えることではあるのですが、
①胎動が少ない、または減った
②お腹の変化がない(大きくならない)
③おりものの性状(破水の有無)
この3つのポイントに注目してほしいです。
お腹(腹囲)があまり変わらず小さめで経過していると胎児の発育遅延や、羊水過少症などが疑われることがあります。
おりものの性状はあまり気にしすぎてもストレスになってしまいますが、水っぽいものが流れ出てないかをチェックすることが大切です。
破水は大量に羊水が流出する場合もありますが、ちょろちょろと流れ出ることもあります。
尿漏れとは別に水が流れ出るような感覚がある場合は、産婦人科の受診をおすすめします。
羊水過少症による赤ちゃんや出産への影響は?
胎児が成長しない、苦しくなる
羊水が減るとクッションがなくなってしまうため、胎児は子宮の壁から圧迫されてしまいます。同時に臍帯も圧迫されることによって血液の流れが悪くなってしまいます。
その結果、胎児へ血液が十分に流れなくなり、胎児の発育が阻まれてしまいます。更に、十分な酸素を送れないので、低酸素状態となり、胎児に負担がかかります。
具体的には胎児の体重が増えない、胎児心音の低下などの健康問題が起きてしまいます。
また子宮の壁に圧迫されることで、胎児の手足の形が変形してしまうことがあります。非常にまれですが、胎児を包む膜(羊膜)と胎児の一部が癒着してしまうこともあります。
胎児の肺が機能しない
羊水過少の状態が続くと、呼吸用運動が極端に減ってしまうため、肺がしっかり機能しなくなってしまいます。
肺の機能が弱いと子宮の外に出たとき呼吸の異常をきたしやすくなり、呼吸がうまく行えないと命に影響してしまいます。
特に妊娠中期ごろ(28週前)の羊水過少は、肺の低形成に影響を及ぼす確率が高くなってしまいます。
出産は緊急帝王切開になることも
陣痛が起こっている時は子宮の筋肉が収縮しており、子宮内の血液の流れが減少します。胎児への血流が減ることになるので、赤ちゃんは苦しくなります。
羊水過少症ではもともと胎児に負担やストレスがかかっているので、陣痛により過度のストレスが生じやすくなります。したがって、胎児心拍が低下し、胎児の状態が危険にさらされやすくなってしまいます。
普通分娩(経膣分娩)に挑んでいても、赤ちゃんの状態によっては緊急で帝王切開手術になる可能性があるということ念頭に置いておきましょう。
治療方法、対処方法は?
妊娠週数や原因によって治療方法は異なります。具体的にご説明していきます。
入院して管理する
入院して安静に過ごし、胎児の状況をモニタリングをします。ノンストレステストを行い評価します。
ノンストレステストとは、20分~40分間、分娩監視装置をお母さんのお腹につけて行われます。赤ちゃんの心音が一番大きい場所と、腹部(子宮壁)に機械を当て、ベルトで固定します。モニターが記録する胎児心拍数やグラフから赤ちゃんの状態を把握します。
また、超音波検査で適宜、胎児の発育状態や羊水量、胎児への血流を観察し総合的に赤ちゃんの健康状態を把握します。異常の早期発見に努め、早期に対処できるように入院管理を行います。
母体に発熱などの感染兆候があれば、抗生剤投与や補液が考慮されます。
母体に妊娠性高血圧症候群などの疾患がある場合は、疾患に対する治療が行われます。血圧チェック、尿検査などを定期的に行い、薬剤投与などを行います。
子宮収縮抑制剤を投与
37週前に前期破水をして羊水過少と診断された場合は、子宮収縮抑制剤を投与し妊娠状態を維持するようにします。
37週以降は正期産といって、赤ちゃんがいつでも生まれてよい時期に入りますが、37週未満での出産は早産となります。早産児の場合、赤ちゃんの呼吸機能などが未熟だったり、体温調節が難しかったりと、さまざまなリスクがあります。
子宮収縮(陣痛)を抑える薬剤を投与し、できるだけお母さんのお腹の中で育ててあげます。
胎児膀胱・羊水シャント術の実施
胎児の泌尿器系異常が原因の場合に胎児膀胱・羊水シャント術が行われます。
具体的には、赤ちゃんに尿路閉塞・狭窄などがあるある場合に実施されます。
泌尿器系の異常は妊娠全体の1%であり、施術は妊娠早期に明らかな異常がある場合に限り行われます。(日本小児泌尿器科学会より「※参照:出典元」)施術後、生命予後が改善されるとの報告はありますが、腎機能障害が生じる可能性もあるため、専門医とよく相談していくことが大切になります。
施術は妊娠16週~20週前後に行われます。
胎児の膀胱にカテーテルを入れてたまった尿を羊水腔へと導く施術になります。
分娩を早める
37週以降で、赤ちゃんに問題がなければ、誘発分娩をして早く分娩を促します。
誘発分娩は陣痛促進剤を投与して行われます。
37週以前であっても胎児の状態が思わしくない場合は、緊急で帝王切開術を行います。
つまり、胎児の状況によっては思いがけず早産になってしまうこともあります。
34週頃に肺の細かい袋(肺胞)が膨らんだ状態をキープする物質(肺サーファクタント)が分泌されます。肺胞が膨らんだ状態であれば、酸素を取り入れて十分な呼吸を行うことができます。肺サーファクタントが不足していると、赤ちゃんが生まれたときにうまく呼吸ができません。そのため34週未満に分娩が予測される場合は、肺の成熟を促す目的で副腎皮質ステロイドの筋肉注射を行ってから出産することがあります。
赤ちゃんの状態が良い場合は副腎皮質ステロイドの投与が可能ですが、急いで分娩が必要な場合には投与できない場合もあります。
人工的に羊水を注入
温めた生理食塩水を子宮内に注入する治療法になります。エコーで確認しながら子宮の入り口からカテーテルを挿入し、生理食塩水を注入します。
一時的に羊水の量を維持させて、赤ちゃんが過ごしやすい環境を作ることが目的です。臍帯の圧迫の改善が期待されますが、リスクもあるため、状況を判断して行われます。
エビデンスとなるデータが少ないようですが、持続して羊水を注入することで、生命予後が良好であった報告もあるため、治療法として用いられます。「日産婦誌59巻9号 参照:出典元」
まとめ
羊水過少症の原因は、前期破水、胎児の異常、母体側の疾患などさまざまでした。
赤ちゃんへの影響が大きいため、赤ちゃんを助けるために、思いがけない早期の出産なども起こり得ます。
定期的な妊婦検診を受け、お母さんとお腹の中の赤ちゃんの健康状態を把握することが大切です。
不安になりますが、不明な点などは遠慮なく主治医や看護師に聞きながら、無事に出産できるように過ごしていきましょう。